ロックバンドの代名詞とも言える、ローリング・ストーンズが日本にやってきた。1960年代結成のバンドを、今尚こうして観ることができるのは奇跡に近い。東京ドームで3日間、また演ってくれることを神に感謝したいところだが、粗暴な振る舞いや歌う曲の内容から悪魔とも呼ばれた彼らなので、悪魔にも感謝したい。
アップテンポな「Get off my cl0ud」でライブの幕を開け、数々の名曲を披露する。メンバーの殆どが70歳を越えているが、驚くべきエネルギーだ。特にミック・ジャガーはすごい。東京ドームに広く取られたステージ上を縦横無尽に走り回る。1塁側ベンチから3塁側ベンチまで、またバックネットの辺りからマウンドの辺りまで、所狭しと駆け回ってはシャウトし、踊る。「Emotional rescue」では1曲通して裏声で歌い続ける。途中上着を脱いでシャツ1枚となるが、その細い身体に年齢からは信じられない筋肉がついているのがわかる。
チャーリー・ワッツも圧巻だ。50年以上ストーンズのリズムを担ってきた男のドラムプレイは、尚深みを増したグルーヴ感を生み出している。前回のワールドツアー時には、年齢的な理由と、長期に渡り家を空けることに嫌気が差して直前まで出演を渋った経緯がある。しかしこの男無くしてストーンズはあり得ない。また10年前には癌であることも公表され、ファンを心配させた。
だが今の彼のドラミングにはそういった不安は感じられない。一分の隙もないプレイは往年のチャーリーだ。「悪ガキ」揃いのストーンズにおいて唯一紳士的な彼は、メンバー紹介の際も恥ずかしげに少しだけステージの前に出る。それをミックが腕を引っ張り、ステージ中央まで連れて行くと、チャーリーは少し頭を下げて、手を振る。そしてすぐにまたドラムセットの陰に隠れてしまう。
メンバー内で最も若い(といっても66歳なのだが)ロン・ウッドは特に元気だ。本人の性格さながらの明るいジャケットを身に纏い、ステージの端から端までミックと共に走り、ギタープレイを見せてくれる。衣装のせいもあるだろうが、ただ観ていると本当に2、30代かと思うぐらいの動きとギターだ。特に「Brown Sugar」の様なアップテンポな曲では、彼の派手なギターが光る。
元気なメンバー内において、最も年齢を感じたのはキース・リチャーズだろう。ギター・プレイヤーでありながら、元々あまり前に出て派手なプレイを披露するタイプではない。ステージでは裏方のようにバンドを支える彼だが、今回はいつも以上にプレイが静かだ。ほとんど動くこともなく、静かな指のスライドで淡々と演奏をする。荒くれ者キースも70歳を越え、何か悟りを啓いたかのようだ。
それでも自らがボーカルを取る「Slipping away」はすばらしい。ライブ中、2曲程度キースが歌うのは定番となっている。あまり動かないキースにやや心配を感じたが、いざ歌いだすと、独特のダミ声を張り上げて聴衆を喜ばせてくれる。短いMCで、特に人気の高い「Happy」を歌うと告げると、一際大きな歓声が上がる。この曲は1971年に作られた。ストーンズの楽曲が最も成熟していた時とも言われ、湧き出るハッピーな感情から生まれた、とキースが語る曲だ。キースの後ろを見ると、ロン・ウッドがギターを台に乗せて横に置き、琴をつま弾くように演奏している。こいつもハッピーな奴だ。さらには、キースがボーカルを取る間、ゲストとしてロンの前任ギタリストのミック・テイラーも参加している。現行のストーンズのメンバーに、ミック・テイラーがいた時代が最も充実していた、と彼らは語っている。再び共演が観られるのは幸せなことだ。
あえて苦言を呈すとしたら、個人的に最も好きな「Paint it,black」のキーを下げて、テンポを落としていたことと、「Jampin’ Jack flash」がオープン・チューニングではなかったことか。
(戸次義継)