流行やブームというものは、大抵仕掛け人が存在して、ブームを起こすことでビジネスにしている連中がいるものだ。食べ物、ファッション、観光地、何でもそうだ。

誰が言い始めたのか知らないが、いつの頃かパワースポットという言葉を聞くようになり、今ではパワースポット巡りなるものが流行っているという。神社や仏閣などが多く、「巡礼客」が数倍に膨れ上がったところもある。単なる観光地であれば、利益増の恩恵を受けて万々歳かもしれないが、神社ともなると必ずしもそうは言えない。元々営利団体ではないのだから、鳥居も通らず参拝もせずただパワースポットとされる場所に集まってベタベタ触って帰っていく「巡礼客」はあまり歓迎されない。

パワスポ、なんて軽い呼ばれ方をして、ブームになれば集客や利益面で恩恵が受けられる反面、必ずマナーの悪い人も節度をわきまえない人も集まってくる。100人中99人が良識のある人だったとしても、1人の心無い人が文化財に傷を付けようものなら、取り返しのつかないことになる。多くのパワースポットなる場所は、突然急増した来客に困惑しつつ、対応しているうちにブームは過ぎ去る。荒らされずに済めばオメデトウといったところか。

私は殆ど東京を離れないが時々旅行や出張で地方にいくと、その土地の神社を巡ってどのような神が祀られているのか、どんな歴史があったのかを知るのを楽しみとしている。小さくて殆ど手入れもされていないようなところでも、祀られている神と歴史がある。その知られざる歴史を紐解くのが楽しみなのだ。

正にパワースポットとして紹介され、マナーの悪い人々に悩まされている、と出雲の須佐神社がニュースに出ていた。パワースポット。この胡散臭い言葉になぜ簡単に踊らされるのだろう。彼らは須佐之男命すらよく知らないのではないだろうか。

須佐之男命は確かに、日本の神話上最もパワーのある神かもしれない。しかしパワースポットを求めてくる人たちは、須佐之男命ではなく敷地にある大杉に集まる。神より杉の方が重要とはびっくりだ。杉に集まって何をするというのだろう。花粉症を治してくださいとでも願うのか。須佐之男命を祀った神社は日本中いたるところにある。わざわざそんな遠くの杉まで行かなくても、都内の須佐之男命を祀った神社に行った方が、よほど手軽でいい。

知人にもパワースポット好きな人がいる。しょっちゅうパワスポ、パワスポと言いながら関連雑誌を読んでいたりする。神社巡りが好きな私だが、もしその知人にパワスポあるから神社に行こう、と誘われても行く気にならない。家でサンスポでも読んでいる方がましだ。隅々まで読めばバカにならない情報量がある分、有意義に過ごせる。

(戸次義継)