「4月から消費税が8%になることを、当り前のようにお客様に言ってはいけません」
ある百貨店の朝礼での言葉である。
今般の消費税法改正では、お客様の手元に渡るのが4月以降になる商品に関しては、3月中に支払いをしても新税率が適用になるので、予約品などの承りの際には重々注意をするように、というお達しなのだ。
「8%に上がることを当然の話として言ってしまうと感じが悪いので、丁寧にご説明をしてご納得いただくように」と話は続く。考えうるクレームは細心の注意を持って未然に防ぎたい、というところだろう。
ここでひっかかるのは、店の都合による値上げではなく、小売業者が国に納める代行をする消費税に対して、「ご納得いただく」ところまでなぜ店が代行をしなければいけないのかということだ。
消費税増税は消費者にとっても大きな負担であるのは当然だが、小売いじめでもあると思ってしまう。

増税による小売の負担は大きい。
会計システムの変更には費用がかかるし、商品1点1点の値札の付け替えなどは人海戦術だ。
2004年から税込みの総額表記を義務付けられていたところ、今回と次回の増税をにらんで2013年10月から2017年3月までは総額表記の規則を緩和するなど、ご都合主義の措置に振り回されることもある。
これらのことは、ある程度予測ができ数値化できる負担と言える。
しかし買い物客からの理不尽な苦情などは、予測も数値化もできない負担である。

テレビではニュースやワイドショーなどで消費税増税がらみの情報を毎日のように流している。特に3月に入ってからは、駆け込み需要による景気の話や、増税前のまとめ買いネタなどを頻繁に見かける。この期に及んでまさか増税のことを知らない人がいるとは思えないが、その実、広い世間にはいろいろな人がいるものだ。

1989年の消費税導入の際にも、1997年の3%から5%への増税の際にも小売業に従事していた。
「4月1日よりお買い物には新税率での消費税がかかります」という店頭での告知、商品を取り置きしている顧客へは個別連絡を事前に行なっていたが、それでも新税法が施行された後にやってきて、ウソか真か「私は聞いてない」「俺は知らない」と言う買い物客が現れるのには驚いた。
「消費税まで搾り取るの!?」とか「3%ぐらいお勉強できないの?」などと店員にせまるのはまだかわいいほうだ。
店は国に納める橋渡しをしているだけ、といった丁寧な説明でご納得いただくばかりだからだ。
「聞いてないから支払わない」という“権利”を主張する者、「昨日の今日なんだからお宅でなんとかしろ」などと居座る客には埒があかない。買うのをやめて帰ってくれれば問題ないが、そういう人物に限って「買うから何とかしろ」の一点張りで、責任者が出てきて対応するという大いなる徒労を招くのだ。

おそらく多くの店で似たような経験をしていると見え、今回は予約品の承り伝票などには「8%ご了承済み」などと記入する店もある。ご了承も何も、法で決まった以上は払わなくてはならないものなのだが。

数日前に都内のコンビニで買い物をしたら、店内のプライスカードがすでに8%の税込価格で表記されていた。
実際に購入する際には、レジで自動的に5%の計算をするとのこと。
おそらく一晩ですべて差し替えるのは無理なので、早々と替えてしまったのだろう。気の早い話だ。
24時間営業のコンビニなどでは、深夜0時を1分過ぎたの過ぎないのといったトラブルが起きるのではないかと老婆心ながら心配してしまう。

冒頭の百貨店では駆け込み消費の反動による4月の落ち込みを少しでもくい止めようと、4月にだけ使える割引券を買い物客に渡すなどの対策を打っている。

一度上がった消費税は二度と下がることはないだろう。一生のうちに5%で買えるのは今月で最後だ。
大物の買い替えは言うまでもなく、トイレットペーパーや洗剤などの日用品、レトルト食品や米、ビールなどの日持ちのする食料品を買いだめする主婦は多い。かと思えば、先日電車の中で「1万円で300円違うからってそれが何さ」と話している老人女性を見かけた。こういう豪気な人には増税後も大いに消費をしてもらいたいものだ。

まもなく4月1日がやってくる。買う方も売る方も、戦々恐々とする瞬間が近づいている。

(ハマノミドリ)