日本で一番高い300メートルの高層ビル「あべのハルカス」が誕生した、大阪・天王寺。
この辺りには、日雇い労働者が集まる釜ヶ崎(あいりん地区)、遊郭からの伝統を持つ飛田新地、昼から酒を飲んでいても浮かない繁華街、新世界がある、大阪でもディープなゾーン。
あべのハルカスの横には、「チン電」と地元の人々が呼ぶ路面電車、阪堺電気軌道上町線が走っている。古びた駅は昭和30年代の趣だ。

入場料1500円で上れる「あべのハルカス」展望台は58階から60階を貫き、中は広大な吹き抜けになっている豪華な作り。
「天空庭園」と名付けられた58階は、一面ウッドデッキになっている。
そこから見下ろすと、大阪のシンボルの一つであったはずの通天閣が、小指ほどの太さにしか見えない。
通天閣の入場料は300円で、高さは100メートル。
通天閣にしか上れない層と、あべのハルカスに上れる層に分かれるのではないか。
まるで格差社会を象徴する塔のようだ。

近辺を歩いてみると、あべのハルカスができたのにも関わらず、前からあるショッピングモール「あべのキューズタウン」がけっこう賑わっている。
それもそうだろう。カフェの料金からして違う。売っている物の値段も違うだろう。

なんといっても「あべのハルカス」が周囲と差をつけているのは、文化があること。美術館がある。
開館記念で「あべのハルカス美術館」が行っているのは、「東大寺」。

興味を引かれたのは、「大仏蓮弁拓本」。大仏の座している蓮弁の拓本だが、釈迦の話を大勢の菩薩が聞き入っている絵が彫られているのが分かる。大仏を見ても、なかなか1枚1枚の蓮弁まで目が行かないので貴重だ。

十二神将立像が、間近で見られるのも嬉しい。
3つの像は、それぞれ頭に、牛、兎、竜を乗せた、丑神立像、卯神立像、辰神立像で、勇ましいながらもユーモラスで見ていて飽きない。

目が引きつけられたのが、アフロヘアで四角っぽい顔をした仏像だ。
これは、五劫思椎阿弥陀如来座像。
劫とは、きわめて長い宇宙論的な時間の単位だ。
菩薩から阿弥陀如来になるまで修行する間に、それだけの時間がかかったということを、髪のボリュームで現しているのだ。

ビリケンと競るくらいに愛らしい風貌だが、残念ながらこちらは触れることができない。

(深笛義也)