オボちゃんを虐めたからこうなったんだとばかりに、小保方晴子博士のSTAP細胞の件以降、これまでの学者の論文にも厳しいチェックが入るようになり、ノーベル医学生理学賞を受賞した、山中伸弥教授の論文にまでデータ捏造疑惑が浮上している。
それらのことは徹底的に検証すべきであろう。
だが、データ捏造どころではないことをやっていた科学者のことも、忘れてはならない。
原発の危険性を指摘する正しい解析を「捏造」と言ってのけ、「プルトニウムは飲んでも大丈夫」と断言していたのが、東大大学院工学研究科の、大橋弘忠教授だ。
彼は捏造どころか、プルトニウムを飲んだらどうなるかということについて、動物実験さえも行っていない。
この発言は、テレビのワイドショーでのものではない。
九州電力が、佐賀県の玄海原発3号機で、日本初のプルサーマル発言をしようとしたときの、地元住民、県民向けの公開討論会でなされたものだ。
この時に大橋は、事故の危険性を指摘する解析を、「捏造ともいえる」とまで言っている。
この公開討論会には、原発の危険性を指摘し続けてきた、京都大学原子炉実験所の小出裕章助教も出席していた。
彼との論戦で、大橋教授の問題発言が出た。
「テロリストがプルトニウムを盗って貯水池に投げ込んだ。何万人死ぬか。1人も死なない。プルトニウムは水に溶けないし仮に体内に入ってもすぐに排出されてしまう」
プルトニウムが危険なのは気化して、鼻から呼吸で取り込んだ場合だと、小出助教は指摘した。
それに対して大橋教授は、「どうして気体になるんですか?」と、とぼけた問いを発している。
小出助教の答えは明快だ。
「事故の場合にはもちろん微粒子になるわけですし、ものすごい高温になっていますので、エアゾルにもなって出てくるわけです」
その通りのことが、福島原発事故で起こったのだ。
原発事故後に大橋の発言が問題となると、東大のアイソトープ総合センターセンター長でもあり、福島現地でボランティアで放射能測定も行っていた児玉龍彦教授が、「プルトニウムを飲んでも大丈夫などと言った者がいるが、とんでもない!」と憤った。
それから沈黙していた大橋教授だが、12年に自身のホームページにこう書いた。
「プルトニウムは水に溶けにくいので、仮に人体に入っても外に出て行く、と述べたのが、それならプルトニウムは飲めるのか、飲んでみろ、となっているらしい。文脈を考えれば分かるのに、今時小学生でもこんな議論はしないだろう」
この文章、今は消えている。大橋研究室のホームページを見ると、研究内容は、経済物理・金融情報学、ソーシャルメディアの分析などとある。原子力の「げ」の字もない。
大橋教授の専攻はシステム創成学で、実は原子力の門外漢だ。大橋はもともと東京電力の社員である。生粋の御用学者として、何も分からないはずの原発を安全だと言ってきたのだ。
それでも大橋教授は現在、北陸電力の原子力安全信頼会議の7人のメンバーの1人である。
「プルトニウムは飲んでも大丈夫と言っていた大橋教授がメンバーで、原発の安全が保てるんですか?」
そう北陸電力に質すと、「社外有識者の多角的なご意見・助言をいただくためです」という回答だった。
(深笛義也)