警視庁蒲田署の警察官が、上司のパワハラが原因で拳銃自殺した。部下たちはこの上司に「お前らはダメだ。身の振り方を家族に相談しろ」だの「降格を申し出ろ」だの日々怒鳴られ、中には紙パックを投げつけられて「お前は警察官に向いていない」などと言われた人もいるという。
パワハラというものは捉え方で個人差がある。日頃からこれでは現場の人は厳しい限りだが、警察というところは職業柄、並の企業よりはずっと厳しいとはよく聞く。
私が最初に勤めた会社は、パワハラ地獄だった。社長が従業員を説教しない日は無く、特にミスをしなくても「態度が悪い」「説明の仕方が悪い」だのと揚げ足を取っては説教をしなければ気が済まないようであった。ある営業が、広報にも載せている会社情報を取引先に送ったところ「会社の情報を何だと思っているんだ」と説教が始まる。その部署全員が起立して、社長の説教の間仕事の手を止め立ちっぱなしになる。途中で意見を求められた私が「PCのセキュリティソフトが期限切れなので、機密を守るためにも更新してください」というと「それは問題じゃない」と逆に怒鳴られてしまった。まあ藪蛇を突いたなとは自分でも思うが。
社長に嫌われた管理職は毎日のように何時間も説教されていた。社長室で怒られていたはずが、見せしめの為に他の人がいる執務室にわざわざ移動して、皆に聞こえるように説教を続けていることもあった。その管理職は叱られた原因の解明に部下の営業に説教をする。負の連鎖が続き営業、管理職は入れ替わりが激しく、あるいは休職し、従業員100人程度の会社だったが、1年もすると営業職の顔ぶれが半分は変わっていた。
数年後に私も会社を辞めた。転職した先では怒声も罵声も無い静かなオフィスで、前の会社とのギャップに驚いたものだ。私はその会社で初めて、仕事を楽しいと思えるようにもなった。
その会社では、私の部署で説教をする人もされる人も無く穏やかに働けたが、隣の部署の部長は時々怒って部下を叱る場面が見られた。私にしてみれば、隣の部署の説教など前の会社に比べれば優しいものに見えた。部長も怒ってはいるが、理に適った理由で説教をするし、何時間も続くことも無い。頻度も月に一度あるかないか程度だ。それぐらいであれば仕方ない範囲だとは思ったが、その会社自体の温和な体質からは異質ではあり、その部署からは退職者も多かった。辞める理由はやはりパワハラだと、皆言っていた。
職場が変われば雰囲気も違い、パワハラと受け止める基準も変わってくるのかもしれない。そういう意味では警察という職場は民間より厳しい面もあるだろうし、ある程度厳しくなくてはならない面もあるだろう。自殺した警察官は気の毒だが、異動、または転職と言った選択肢は無かったのだろうか。職場が変われば雰囲気も心持も全く違ってくるのだから。
(戸次義継)