「残業代ゼロ法案」について、以前に日本総ブラック企業化という記事を書いた。その後もニュースやコラムを見る限り、この法案には反対意見が多い。誰だって当然同じ懸念を持つだろう。
この「残業代ゼロ」法案に賛成する記事やブログも結構多い。内容によっては政府の息がかかっているのだろうかとか、世間の流れに逆らう自分をかっこいいと思う人なのかとか考えてしまうこともあるが、逆に政府の方針に何でも反対するのは、やはり社民党や共産党の回し者かとか、どこか市民団体の関係者かと思うことがあるので、同じようなものか。どんな意見にも賛成反対の声が出るのは民主主義社会として正しい姿だ。確かに「残業代ゼロ」という呼び方も、作為的と思う。
実際、賛成する人の意見もある程度わかる。彼らの言い分に多い、残業代欲しさにダラダラと社内に残る社員の批判も正しい。残業代がなくなれば、彼らに無駄な残業代を払う必要はなくなる。残業する社員が多く、定時で帰るのが悪しきことのような風潮の職場もあり、帰りにくく無駄に残業をするというのもよくあることだ。
それと真面目に仕事をしていて、遅くまで残る人の残業代を無くすこととは等価交換にはならない。「残業もせず定時で帰るなんて、やる気がない」と考える古いタイプの上司であれば、残業代の有無にかかわらず残業を強いられるだろう。現状、長い不況の中人件費を削り、一人あたりの仕事の負担が大きくなっているのだから、残業せざるを得ないという状況にいる人の方が多い。そこから残業代を削るのは、やはり非人道的だ。
「時間に縛られない働き方」も「裁量労働制」も、結局は企業の性善説が前提としてなければならない。悪用すればいくらでも悪用できる制度だからだ。実際裁量労働制はブラック企業にとって労基法の抜け穴でしかない。もし「残業代ゼロ」を通すのなら、いっそのことフランスのように週35時間労働制をセットにして、徹底させたらどうか。それなら反対する「労働者」は相当数減るだろう。
本当の問題は残業代が出る出ないではない。元々法律で認められていない残業をしなくてもよい社会にする、という当たり前のことが実行できるかどうかだ。今既にサービス残業や労基法違反の長時間労働が横行しているのだから、これ以上悪化しそうなニュースには敏感になって当然だ。たまには労働者が安心できる意見や法案を、ニュースで観たいものだ。
(戸次義継)