筆者は当欄で、2010年に下関市であった女児殺害事件に関し、無実を訴えながら裁判員裁判で懲役30年の判決を受けた在日韓国人の男性・湖山忠志氏(30)=最高裁に上告中=の冤罪疑惑や山口地検・保木本正樹三席検事(当時)の取調べ中の民族差別発言疑惑を繰り返し報告してきた。また、昨年1月16日付けの「頼りにならない最高検監察指導部」(http://www.rokusaisha.com/blog.php?p=2101)という記事では、この事件の裁判員裁判で澤田康広次席検事(当時)ら山口地検職員が山口地裁に請求して取得した特別傍聴券により毎回6席の傍聴席を占拠していた問題についてもレポートした。この澤田次席検事らの傍聴席占拠問題をめぐり、最近になり事態の進展があったので、お伝えしたい。
まず、ここまでの事実関係を整理しておこう。上記の昨年1月16日付けの記事でも一部お伝えした通り、筆者は澤田次席検事らによる傍聴席の占拠問題があった2012年6月末、このことを最高検の監察指導部に報告し、傍聴席の占拠をただちにやめさせるように求めた。そして後日、最高検に対し、この件が検察内部でどのように取り扱われたかがわかる記録(保有個人情報)の開示を求めたところ、2012年11月2日付けで開示された計14枚の文書は大半が黒塗りされていた。わずかに開示された部分の記述は次の通り。
<検察官の補助者たる検察事務官を法廷内に入れるか傍聴席で待機させるか、特別傍聴券を検察官や弁護人に何席分割り当てるかは、裁判所の訴訟指揮に属する事柄であり、山口地検が、前記事件において、6席分の特別傍聴券を割り当てられたことをもって、次席検事を始めとする山口地検職員が、違法・不適正な行為をしたとは認められない。>
要するに、最高検の監察指導部は、澤田次席検事らが山口地裁に対し、“自ら特別傍聴券を請求して”傍聴席を占拠したという経緯を無視したうえ、澤田次席検事らによる傍聴席の占拠問題について、「裁判所が認めているのだから、何をしてもいい」という独善的な論理で片付けてしまったのである。
そこで、筆者はこの澤田検事らの問題をさらに追及するため、黒塗りされた部分も開示するように異議を申し立てた。しかし結局、検察庁は異議申し立てから90日以内に全部開示する決定をせず、法の定め通り、外部の有識者で構成された情報公開・個人情報保護審査会に諮問し、2013年2月4日に受理された。その後、審査会では審議が重ねられ、この間に筆者も意見書を審査会に送るなどしたのだが、諮問の受理から1年以上経った今年4月24日、ようやく審査会が答申をした。
結論から言うと、審査会の答申は真っ当な内容だった。検察庁は14枚の文書の大半を黒塗りにしたことについて、「最高検の監察指導部の業務が適切に行えなくなる恐れがある」「検察庁の公判活動に支障を及ぼす恐れがある」と主張していたのだが、審査会の答申書は計11カ所の部分について、そのような恐れがないことを指摘して検察庁の主張を退け、開示すべきであるという見解を示した。つまり、澤田次席検事らの傍聴席占拠問題に関する検察庁の対応について、有識者たちが不当性を認めたのである。
ちなみに、審査会は2005年から2012年までに、検察庁からの行政機関個人情報保護法にかかわる諮問に対して65件の答申をしているが、いずれも「諮問庁の判断は妥当である」と結論しており、一部でも検察庁の判断を否定したのはこれが初めてである可能性もある。澤田次席検事らの傍聴席占拠問題に関する検察庁の対応がそれだけ酷かったということだ。
検察庁は今後、この答申を尊重して、筆者の異議申し立てに対する裁決・決定をすることになるが、往生際悪く黒塗り部分を開示しない可能性もないわけではない。それならそれで、筆者はまた新たな対処をするつもりなので、その時はまた当欄で報告させてもらいたい。また、末尾になるが、審査会の大野市太郎委員(元大阪高裁長官)、池田陽子委員(弁護士、横浜国立大学法科大学院客員教授、元裁判官)、下井康史委員(千葉大学大学院専門法務研究科教授)の3氏には、真っ当な結論を出して頂き、感謝したい。
(片岡健)
★写真は、検察庁の不当性を認めた情報公開・個人情報保護審査会の答申書