地方に行くと、なんとなく「ここに住むことは出来るかな」と考えてみる。
大自然に包まれた素敵な土地でも、図書館もなく本屋もなくレンタルビデオ店もない、となると、やはり住むのは難しい。旅で来るのがいい、ということになる。
住めるかもしれない、と思った土地の一つが、松山だ。
愛媛県の中核都市であり、大街道や銀天街などのアーケード街があり、図書館、本屋、レンタルビデオ店などは問題ない。美術館や博物館もある。
少し車を走らせれば、瀬戸内の海、四国カルストと自然が広がっている。
街には、路面電車が走っている。路面電車があるのは、たいていいい街だ。
そして、街から路面電車に乗ると、道後温泉まで行ける。
言うまでもなく、道後温泉は日本三古湯のひとつであり、万葉集や源氏物語に登場し、夏目漱石の『坊つちやん』にも書かれている。
街から路面電車で行ける名湯は、日本でもここくらいではないだろうか。
かつては、この温泉の奥に、ネオン坂歓楽街(写真)という、とても趣ある場所があったのだが、なくなってしまったのが残念だ。
松山のガイドを見ていて驚いたのは、ライブで音楽が聴ける場所が20カ所以上もあることだった。地方都市としては、ずば抜けた多さである。
その一つ、ジャズを聴かせるパブに行った。
バンドはカルテットで、客は私だけ。
これが東京だったら、
「凄いラッキーですね。お客さんの貸し切り状態ですよ。何か、リクエストありますか?」
といったやりとりで、心温まるひとときが過ごせるはずだ。
だがバンドは、ただ淡々と演奏を続ける。
ムダなMCなどはない。曲紹介さえもない。
知っている人に曲名を教えてもしかたがない、曲を知らない人に曲名を教えてもしかたがない、と言った、マイルス・ディビスに倣ったのだろうか。
演奏のレベルは、気の利いた大学のジャズ研くらいだろうか。
要するに、悪くはない。だが、大都会のライブハウスと比べると、けっこう隔たっている。
文化は大都会に集まってしまうという現象は、どうにかならないものだろうか。
(深笛義也)