私は、前回のデジタル鹿砦社通信への投稿で、昨年末に「デジタル田園都市国家構想」の総合戦略が閣議決定されたことをもって、それは日米統合一体化を進めるためのものであり、その下で、自治体が管理運営している「公営事業」を米系外資が民営化し、自治体そのものも民営化しようとしているという危険性について述べた。
今回は、この「自治体解体・民営化」に絞って、意見を述べたい。
◆自治体解体・民営化を進める動き
自治の解体・民営化と関連して今年に入って、二つの注目すべき動きがあった。
その一つは、1月23日に岸田首相が施政方針演説で「地方議会活性化のための法改正に取り組みます」と述べたことだ。
この方針は、地方制度調査会(首相の諮問機関)が昨年12月末に地方議会のあり方に関して「オンラインでの本会議」などを提言したことを提言したことを踏まえている。
今、4月に行われる統一地方選を前に、マスコミは「議員のなり手がない」「無投票の増加」「定員割れ」「低い投票率」など地方議会が抱える問題点を指摘するキャンペーンを張っている。選挙後の選挙総括も同様のものとなり、今の地方議会は時代に合わないなどと言いながら、「地方議会活性化のための法改正」を援護するものになるのではないだろうか。
問題は、「地方議会活性化」が本当に「活性化」のためのものになるかどうかである。
何故ならば、民営化を担当する米系外資にとって、議会は邪魔であり、そうであれば、この「地方議会活性化のための法改正」は、「議会の権限縮小」あるいは「議会廃止」を狙ったものになるのではないかと思われるからである。例えば、本会議をオンラインで行えば、議場での熱の入った対面議論はなくなり、さっさと採決が行われるなど議会は形骸化するのではないか。他にも、首長(自治体)が承認を求める案件について予算案採決(多くの地方議会ではこれが主な仕事になっている)以外の案件は議会の承認を必要としないとするとか。いずれにしても、「議会活性化のための法改正」は警戒しなければならないと思う。
もう一つは、2月5日に総務省が出した地方デジタル化の方針である。それは読売新聞の「IT人材確保 民間とタッグ 自治体DX促進」なる題目の記事で紹介されていたものだが、それによると、総務省は、市町村でデジタル人材を確保するのは難しく、また内部で育成するのは時間が掛かるとして、23年度から、民間の人材サービス会社と協力して都道府県にデジタル化の外部の人材を確保させ、それを市町村に派遣してデジタル化を推進し、25年度までに戸籍や地方税などの主要業務を処理するシステムの「標準化」を目指すというものである。
この総務省の方針も、自治の解体・民営化を進めるものになるのではないか。総務省が協力を求める人材サービス会社とは、竹中平蔵の人材派遣会社「パソナ」などであり、その人材とは、ゴールドマンサックスなど米国の投資銀行、米系ファンド、GAFAMやそれと関連するコンサルティング会社の人材、あるいは外国人人材になるからである。
実際、これまでの安倍政権での「地方創生」や「スマートシティ」作りでも、小さな自治体などは、自力でやるのが難しく、結局、コンサルティング会社に委託するようになり、「やらされ感」が蔓延したという。
その上で注意すべきは、地方のデジタル化の対象が市町村にされていることである。
それは日本の地方の公共事業は、基本的に市町村などの基礎自治体が運営しているからである。上下水道や道路や河川の整備管理、ガスやゴミ処理、公園や文化施設の管理運営、公共病院や学校の管理運営、子育て・介護・生活保護などの福祉事業など。
麻生副総理が2013年に米国で講演し、「日本には、こういうもの(公共事業)がたくさんあります。これらの運営権を全て民間に譲渡します」と述べた時、会場は色めきたったという。
米系外資が自治体のあらゆる公共事業を民営化していけば地方自治など消し飛んでしまい究極的には自治体そのものが民営化されてしまうだろう。即ち、米系外資が自治体を企業的に運営するようになるということである。
そうなればどうなるか。地域は彼らの食い物にされ、地域住民は、その隷属物にされる。その下では地域の発展など望むべくもない。地方格差はますます拡大し、地域は一層衰退していく。
◆注目すべき自治を守ろうとする動き
先の「デジ鹿」への投稿で私は地域第一主義の全国的な台頭は必然であることを述べた。
市町村など基礎自治体は、生活を守る最後の砦であり、日米統合一体化が進められる中、米国が要求する軍拡のために増税が行われ、社会保障・福祉予算の削減も予想される中でこの砦を守ることは、全国的な切迫してものになっているからである。
このことを示す、端的な例が、大阪でも起きた。それは、反維新の市民団体「アップデートおおさか」が推薦する谷口真由美氏が府知事選に、北野妙子が市長選に立候補を表明したことである。
「アップデートおおさか」は、2年前の「大阪市廃止」を問う住民投票で廃止反対の連合系労組が結成した「リアル オーサカ」が母体となり、これに大阪の経済人が参加した組織である(会長はサクラクレパスHD社長の西村貞一氏)。
谷口氏は法学者であり、北野氏は大阪住民投票で自民党市議団の団長を努め「大阪市をなくさない」として活躍した人であり、今回の立候補では自民党を脱退しての無所属での立候補である。
それは、左右の違い、党派の違いを乗り越え、地域の経済人、自治体職員も一緒になって、郷土愛、地域アイデンティティに基づき、自らが主体となって自分の地方地域を守り発展させようという、地域第一主義の運動だということが出来る。
ここで注目すべきは、彼らが「住民自治」を強調していることだ。
谷口氏は「地方自治の本旨は住民自治。住民が作り上げるもの」としながら、「地方自治の原点に帰って、住民自らが地域の政治や行政を作っていく」と言っている。
実際、維新による新自由主義改革によって、大阪の自治は大きく損なわれている。
彼らが売りものにする「身を切る改革」で、議員の数や報酬が削減され、自治体職員が削減され、街の自治会への補助金も減らされている。
また、「政治に企業活動の方法を導入する」として、地方自治体の民主的な手続きを無視した上からの強権的な行政が罷り通っている。決定するのは首長であるとして教育委員会も有名無実化させられた。
その上で、自治の解体・民営化が狙われている。すでに維新は関空の諸事業を民営化し、市営地下鉄も民営化している。維新の吉村知事は熱心な水道民営論者であり、今後、水道だけでなく、道路などのインフラ整備、医療、教育、文化、福祉などの分野でも民営化が進むだろう。IR(カジノ)も米系外資による文化事業の民営化であり、万博もその方向で進められるだろう。
病院、大学の統廃合、文化施設の削減、学校を統廃合しての小中一貫校の設立なども、こうした分野の民営化の布石だったと見ることもできる。
このような新自由主義的改革を維新は既得権の打破、そのための「改革」として一定の人気を得てきた。しかし、それは、米系外資のための、その民営化を進めるための「改革」であることをしっかり見なければならないだろう。
高知大準教授の塩原俊彦は、政府の地方デジタル化について、「新味なく住民より企業目線。元来の箱もので建設業界の癒着が、ICT関連業者、教育業者に代わった、利益誘導型政治」として新たな利権構造が出来ると指摘する。
維新は古い自民党的癒着を「改革」するとして人気を得たが、彼らが米系外資との新たにして巨大な利権構造に巣くう者たちであることを見落としてはならない。
大阪での反維新の闘いだけでなく、郷土愛、地域アイデンティティに基づき、住民自らが主体となって自分の地方地域を守るという闘いは、今後益々、全国各地で強まっていくだろう。
とりわけ、政府の米国に言われての軍拡で生活が脅かされる事態になっている今日、「生活を守る最後の砦」として、市町村を単位とする地域を守る運動は幅広く切迫したものになる。最早、左右の違い、党派の違い、階級の違いにこだわるときではない。地域住民、自治体職員、地域経済人などが一体になり、地域の自治を守り、地域を発展させていく地域第一主義の運動が切実に問われている。
この広範で切迫した地域第一主義の力で日本を対米追随一辺倒の日本ではなく、国民第一、自国第一の国に変える。そして、この国民第一・自国第一の政府の下で「住民自治」を発展させ、それによって地方・地域の真の振興をはかる。
この運動の先頭には若者が立って欲しいし立つべきである。今の若者世代であるZ世代は「みんなの喜ぶことをしたい。みんなのためになることをしたい」という志向が強いと言われる。実際、多くの若者が色々なアイデアを発揮して地域振興のために尽くしている。
こうした若者がより高い志をもって、地域の自治を守り地域を発展させる地域第一主義の先頭に立てば、大阪で磐石の基盤をもつ維新に勝つことも、米国による日本の自治解体・民営化策動を阻止することもできる。統一地方選を前に、いつにも増して、そのことを訴えたい。
◎ピョンヤンから感じる時代の風 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=105
▼魚本公博(うおもと・きみひろ)さん
1948年、大分県別府市生まれ。1966年、関西大学入学。1968年にブントに属し学生運動に参加。ブント分裂後、赤軍派に属し、1970年よど号ハイジャック闘争で朝鮮に渡る。現在「アジアの内の日本の会」会員。HP「ようこそ、よど号日本人村」で情報発信中。
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