小野俊一医師

3.11直後から毎日休みなく福島第一原発動向をブログで発信し続けてきた「onodekita」さんこと小野俊一医師。東電、福島、被曝をめぐる諸相からメディア・識者批判にいたるまで、縦横無尽に語ってもらった200分インタビューを8回に分けて随時掲載する。今回はその第6回目。

── 小野先生は奇形生物の画像をよくブログに載せています。最近の新聞記事では「黄身のない卵」(毎日新聞2014年5月05日)とか「双頭のヤモリ」(南日本新聞2014年5月13日)や「透明のおたまじゃくし」(朝日新聞2014年6月11日)などが報じられていますが、実際、被曝で奇形や突然変異は増えているのでしょうか?

奇形はむかしからあったといえばあったし、放射能特有の奇形があるわけでもありません。ただ、放射能で奇形化の頻度が増える。双頭の子どもでは米国に成人した双頭の女性がいます。むかしの中国では唐の時代、玄宗皇帝の寝屋のお供の一人に双頭の女性がいたと記されています。だから、双頭の人間がいなかったわけではない。ただ、チェルノブイリではその発生頻度が増えた。そのことが大きな問題だということです。

私は植物の奇形事例も集めていますが、それらの多くが放射能由来だとはなかなか言いきれない。ただ、放射能の影響かもしれない発生条件はあります。例えば、壁や塀の近くの植物に奇形が多くなる。これは雨水に混じった放射能がそのあたりに集まりやすいからかもしれません。熊本でもちらほらあります。最近はあちこちで通常、普通は実がならないジャガイモに実がなることが増えているようです。それを見て、40年、50年も農家をされてきた方々が「珍しい」「初めて見た」と言うから、話題になるわけです。しかし、それが報道されるとネットでは「そんなの珍しくない」と書き込む人が必ず出てくる。

人間の奇形は公にするのは難しいです。日本の法律では妊娠22週を超えると流産はさせらせられない。それに医師は奇形が生まれたことを他者には話さないし、お母さんも隠すでしょう。しかも、奇形児の出産がもし増えてその事実を公けにしても、得する人がいない。お母さんも傷つきますし、へたをすると夫婦間の問題になって離婚なども起きかねない。あそこで奇形が生まれたという噂が広がれば、それこそ差別につながりかねない。

◆分断される「原爆」と「原発」

私が経験したのは、九州の医師会の内部講演会の時に「被曝で奇形が生まれる」という話をしたら、長崎のある医師が猛烈に反論してきた。「長崎はいわれなき差別で被害を受けた。放射能で奇形は生まれないということはABCC(原爆傷害調査委員会)の研究で証明されている。なんでお前はそんなウソをつくのか!」と正面から噛みつかれました。

放射能と奇形の因果関係は議論の余地などないと思っていましたから、その時は唖然としました。その医師の略歴を聞いたところ、彼は長年、長崎で被爆者救済支援されてきた医師でした。要するに彼は、原爆被爆者は支援するけれども、差別は作りたくないがゆえに、奇形は出てこないと奇形の有無については、ABCCの報告を鵜呑みにし、奇形の話が出ると「原爆で奇形は起きていない」と主張する。その長崎の医師は五十代で、長年被曝活動に尽力されていた先生でしたから、よほど勉強していないと反論するのは難しい。

自分の活動が政治的だとさえ思っていない。だから、「放射能では奇形は生まれない」と彼の中では決まっていて、そこは絶対譲れないという考えです。長崎の被爆者組織の中にもそういう認識の人がかなりいるから、ことは単純ではありません。しかも被爆者は「当事者」なので、彼らの言葉はたとえウソであろうと社会的に力が強い。

3.11の後に長崎の被爆者の講演会に行ったときです。そこで被爆者の講演者が何を話していたかといえば、アメリカが原爆を落とした時、ピカッとしてやけどなどで被曝して死んだのは認める。しかし、内部被曝など爆発後の被害は認めないわけです。だから、私は質疑の際に挙手をして「爆発後に具合は悪くなかったのですか?」と質問した。すると彼は「爆発後はぜんぜん(体調は)悪くなかった。」「健康だった」と言うわけです。

熊本留学生交流推進会議の企画だったので英語同時通訳がつき、留学生の一人も「奇形児は生まれなかったのか?」と質問しました。すると講演者は「一切生まれなかった」「そんなことがあったら大変なことです」とまで言った。しかも、3.11の後なのに原発については一言も語らなかった。

その後、私は講演会の事務の方に「原発事故でも被曝します。それも大事じゃないですか?」と意見しました。すると主催者側の人は「我々にも立場があるから、そこには触れません」と言いました。[つづく]

[2014年6月26日熊本市 小野・出来田内科医院にて]
(構成=デジタル鹿砦社通信編集部)

ブログ「院長の独り言」

▼小野俊一(おの しゅんいち)(小野・出来田内科医院院長)
1964年広島生まれ宮崎育ち。東京大学工学部(精密機械工学科)を卒業後、1988年に東電に入社。福島第二原発(5年間)と本店原子力技術課安全グループ(2年間)で7年間勤務。1995年に退社後、熊本大学医学部に入学し、2002年卒業。NTT病院等の勤務を経て、熊本市の小野・出来田内科医院院長。『フクシマの真実と内部被曝』(2012年11月七桃舎)
◎ブログ「院長の独り言」 http://onodekita.sblo.jp/

 

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