これまで貴通信には日米統合一体化が進んでいることに警鐘をならす投稿をさせて頂いた。今回は、その流れの中で、今株価が上昇し、バブル歓迎論が出ていることに焦点を合わせ、それが誰により、何を狙ったものなのかを考えていきたい。

◆米国外資による「日本買い」

年初から高騰していた株価は、2月22日には、バブル期最高値である1989年12月29日の3万8915円を超える3万9098円を記録した。

株高はすでに、昨年の1月に始まっている。その時、マスコミは、「日本経済復興のチャンス」を謳い、国際投資アナリストなる大原浩氏などは「30年ぶりに日本の黄金時代がやってくる」(現代ビジネス)と手放しの歓迎ぶりであった。

そして今回もマスコミは「日本反転の契機に」「真の経済再生の好機」などと株高、バブルを歓迎する報道を行っている。

株高の要因はマスコミなども指摘するように「外国勢の『日本買い』」であり、その主役は米国外資である。そして米国は、それを煽っている。昨年春には、世界3大投資家の一人で「投資の神様」と言われる、ウォーレン・バフェットが来日し、「これからは、日本株」と持ち上げて見せた。

最高値に迫った2月15日、内閣府は昨年末にGDPでドイツに抜かれて、4位に転落したと発表したが日本経済の衰退は著しい。それなのに米国外資は「日本買い」に走っている。そうであれば、米国の意図は何かである。

それは米国の新冷戦戦略を考えてこそ理解出来る。今、米国は米中新冷戦を掲げ、西側を結集することで衰退著しい米国覇権を回復させようとしており、そのために日本の軍事、政治、経済などあらゆる領域で日米統合を進めている。

米国外資による日本株の上昇、バブル化は経済領域での日米統合のためのものだ。米国外資による「日本買い」自体がそのことを物語るが、こうした中で、日本株を買った米国外資が日本の企業を直接、管理支配する動きを強めている。

昨年1月から「日本買い」を始めた米国外資は、5月に集中した株主総会で「もの言う株主」として現経営陣の退陣と社外取締役の採用など「企業統治の改善」を要求してきた。

「企業統治の改善」、会社は公器、会社員のためのものであるという「日本型経営」を解体し、会社は株主のものだとして、株主である米国外資が経営権を握れるようにせよということである。米国の投資助言会社が日本的な企業防衛策である「持ち株会社」を問題視するのも、そのためだ。

すでに日本は、デジタル時代にあって「生命線」と言われるデータも米国企業に握られている。デジタル庁のプラットフォームはアマゾンであり、データを集積管理する「クラウド」もGAFAMなど米国の巨大IT企業が握っている。また、熊本のTSMCなど各地で進む、米国IT企業やその傘下企業を中心にした半導体生産基地建設など経済の日米統合一体化が進んでいる。そうした中で、米国外資による日本企業の直接管理支配までが進められているということだ。

経済アナリストの中には、今後の株高推移は、「企業統治の改善がカギになる」と言う人もおり、今年の株主総会では、米国外資による日本企業支配の要求が一層強まるだろう。

日本の企業を米国外資が支配すれば、米国の下での日本経済の統合は決定的に進む。経済がそうなれば、日本という国自体が米国の一部のようになってしまう。

◆岸田政権がそれを積極的に後押ししている

それをあろうことか日本の政府である岸田政権が積極的に後押ししている。

岸田政権が掲げる「資産運用」政策がそれである。昨年1月の「施政方針演説」で、「資産所得倍増プラン」を、7月の骨太方針では「資産運用立国」を打ち出し、12月には「資産運用立国実行プラン」を発表した。

岸田政権の「資産運用」は、2000兆円もの個人金融資産運用が目玉になっている。

今年の施政方針演説でも強調したのは「稼ぐ力」。それが米国外資による株価高騰に国民の個人金融資産を注ぎ込むものであることは言うまでもない。

「資産運用立国実行プラン」は、日本のメガバンクや大手証券会社などの金融機関グループに「資産運用力向上」と「企業統治改善」を求めることを求める内容になっている。

「企業統治改善」は、先に述べたように、米国外資による日本企業の管理支配を意味する。

「資産運用力向上」は、米系資産運用会社に資産運用を任せるということである。

米国資産運用会社は、リーマンショックを引き起こして問題視された「金融商品」の開発など資産運用に長けている。政府は、この「金融商品」を「資産投資商品」と名を変えながら、2000兆円もの国民の金融資産を「金融商品」に使えと言っているのだ。

岸田首相は、昨年9月にニューヨークで米国金融人200人を前に「資産運用特区」創設を表明し、そこでは「英語だけで手続できるようにする」などの優遇策や投資促進策であるNISA(小額投資減税策)の実施などを述べながら、日本の株式市場への投資を要請した。このことは岸田政権の「資産運用」政策が米国の要求に応じ、日本の企業や国民の金融資産を米国外資に委ね売るものであることを如実に示している。

岸田首相は4月10日に国賓待遇で訪米することが予定されている。昨年の訪米では、防衛費を倍増し敵基地攻撃能力保持することなどが約束されたが、その下で、今年の訪米では「資産運用」政策の貫徹、更なる拡大が約束されるのではないだろうか。

◆バブルは必ず破裂する

2月10日に株価が高騰した時に読売新聞の「編集手記」は、万有引力の法則を発見したニュートンが株式投資に失敗したことを挙げて、「今の株価が経済を適切に映さぬ『泡』でないことを願うばかりである。『はじける』が法則でないことも。」と結んでいた。

しかし、今の株価は経済の実態を反映していない「泡」であり、「はじける」のは法則なのである。マスコミは、国民に、そうした事実、真実を知らせることこそ自身の使命ではないのか。それにも拘らず、そうならないことを「願うばかりである」と誤魔化すのは許されないことだ。

そして今、「日本反転の契機に」「真の経済再生の好機」などと欺瞞的な言葉を並べ立て、「貯蓄から投資へ」「投資マインドの向上」などと、株式投資を煽っている。

しかし投資とは投機でありトバクである。トバクは胴元が勝つのが相場である。投機失敗の悲劇はすでに起きているが、私が危惧するのは、社会のトバク化、社会の犯罪化である。今後、経済犯罪もデジタル技術を使い高度化し、様々な犯罪が多発するのではないだろうか。

その犯罪の最たるものは、胴元・米国外資の「売り逃げ」だ。なけなしの2000兆円もの国民資産を食い潰した後の「売り逃げ」。そうなれば「日本再生」など消し飛び、最早、日本という国自体の存在を危うくする。

その上で指摘したいのは、「バブルの効用」である。このバブルは日米一体化の中で意図的に作られており、バブル景気は、日米一体化を正当化するものになるということである。

今、岸田政権の冷たい政治への批判が渦巻いている。しかし、バブルになれば、そうした批判も緩むのではないか。今、冷たい政治を終わらせ「救民内閣」の樹立を訴える泉房穂さんへの期待が高まっているが、バブル景気はこれに冷や水を浴びせることにもなるだろう。

バブルは必ず「はじける」。そして、そのボタンは米国が握っている。30年前のバブル破裂も米国外資の「売り逃げ」で始まった。そして、それを契機に、「日米構造協議」が開始され、その「規制緩和」で日本の強みが解体され、「失われた30年」となったが、次のバブル破裂では、日本という国自体が失われる。

 

魚本公博さん

米国の言いなりになって日本を米国に売り、日本が失われるような対米追随政治を何としても止めなければならない。

米国覇権が崩壊の兆しを強めている中、世界の流れは脱覇権になっている。それなのに何故、日本だけが対米追随を続けなければならないのか。日本は今こそ、世界の流れに合流しなければならないと思う。

ことは日本全体の問題である。日本の主権者である日本国民が主体となり、日米一体化で企業の経営権まで奪われようとしている経済人、経済界まで含めた「オール日本」を形成し、その力で、日米統合一体化、戦争策動に立ち向かい、日本のため、日本国民のための「救国、救民」の政権を一日も早く作らなければならないと切に思う。

◎ピョンヤンから感じる時代の風 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=105

▼魚本公博(うおもと・きみひろ)さん
1948年、大分県別府市生まれ。1966年、関西大学入学。1968年にブントに属し学生運動に参加。ブント分裂後、赤軍派に属し、1970年よど号ハイジャック闘争で朝鮮に渡る。現在「アジアの内の日本の会」会員。HP「ようこそ、よど号日本人村」で情報発信中。

『抵抗と絶望の狭間 一九七一年から連合赤軍へ』(紙の爆弾 2021年12月号増刊)

『一九七〇年 端境期の時代』