◆元「ワーキングマザー」入所者の「小池批判」

まず、東京の若い女性の方は、お気を悪くしてもかまわないので読んでいただきたい。

筆者の勤務先の高齢者施設でニュースの時間。都知事選のニュースで小池百合子候補が無痛分娩や保育完全無料化、私立高校無償化などの子育て支援の実績や公約を訴える様子が映された。

すると、利用者の女性が、「なにをぜいたくな。うちらのころはそんなのありゃせんかったで。それでも、わたしはずっと働いてきたんよ。」とおっしゃった。

まあ、進歩を否定したら身もふたもない、というのも正論です。しかし、これも「女性の声」なのです。

他方で、やたらに高齢者を叩いて溜飲を下げるという言説がマスコミにもあふれています。これは、わたしも違和感を覚えています。

◆時代の転換点

筆者は、2011年~2013年、広島市で男女共同参画審議会の委員もさせていただきました。また、全国各地で女性候補者の応援にかけつけてきました。ジェンダー解消という観点からです。旧態依然とした、広島の地元政治に最も異議を申してきた人間であると自負もしています。

しかし、東京都知事選挙2024を巡る情勢を拝見し、男女共同参画行政なり、ジェンダー解消を求める市民活動も一つの転換点に来ている、と感じます。東京の一定年齢以下のエリート女性から、地方、庶民に比重を移していくべきではないか?という感覚です。

◆小池氏を圧倒的に支持する30代のエリート女性

マスコミの世論調査では、小池氏は女性で支持が厚く、特に30代女性では鉄板どころか、劣化ウラン装甲並みです。

例えば、東京の勝ち組の子育て世代は、いまや、8年間の小池百合子政権で非常に優遇されているのも事実です。人物像としては、東大、京大、早慶などをご卒業され、大手企業や外資などに勤務され、夫婦共働きと言う女性です。

「選挙巧者」の小池知事。選挙対策でこの層を大事にしてきたというべきでしょう。まさに、現代東京の政治家を代表する「横綱」です。

一方で、この層には極論すれば自民党に対しては「田舎のセクハラオヤジ・パワハラオヤジ」のイメージがあり、大変自民党のイメージはよろしくない傾向がある。次期衆院選ではむしろこの層は立憲民主党に投票する人が多いでしょう。それは同時に実施された国選選挙に関する世論調査でも見て取れます。

しかし、都知事選では小池氏が自民党に支援されていることで、この層が小池氏から逃げるかと思いきや、むしろ小池氏を支持している状況がある。それは、裏金自民のマイナスイメージを打ち消すくらい「利益誘導」をやってきたからでしょう。
例えば、高校無償化。名門私立と言われる「開成」や「麻布」、「桜蔭」や「渋渋」も都民は安く行ける。そりゃあ、喜びます。

いまや、成田悠輔さん、高松ななさん、ら若手論客を中心にマスコミでは、「日本は子育て支援は手薄で、高齢者は優遇されている」論が強い。これは本当でしょうか?

少なくとも「小池百合子政権の元での東京」ではその構図は崩れています。

◆疲弊する教育・子育て現場労働者、加速する小池都政

一方で、学校現場では、先生方は長時間労働に疲弊している。スクールカウンセラーなど非正規公務員は低賃金で切り捨てられています。

子育て支援を叫び、実際に実施をしながら、勤務先の校長先生にも生徒にも人気のスクールカウンセラーを切り捨てる。

これが小池都政です。現場労働者の犠牲の上に、勝ち組子育て世代がサービスを享受しているのです。

◆スクールカウンセラーに冷たい小池都政──組合側のアンケート結果より

都内公立学校のスクールカウンセラーが4年で大量に雇止めになった事件。これについて、組合側が都知事選各候補者にアンケートを送り、2日20時現在、小池百合子、蓮舫、清水国明、田母神俊雄候補から回答がありました。

◎心理職ユニオン東京都知事選立候補者に東京都スクールカウンセラーの問題について聞いてみた

東京公務公共一般労働組合心理職一般支部(心理職ユニオン)は雇止め被害者の復職や、制度の改善について要望。現在回答を寄せた候補のうち、小池候補は、組合側の四項目の要望にことごとく賛同できないないし後ろ向きな検討中、としています。

組合側の要望・質問は以下です。
1.雇止め撤回
2,5年を超えて雇用継続を
3,スクールカウンセラーは勤務実績を考慮した採用をすべき
4,残業代を払うべき
これに対して各候補は以下のように回答しています。
小池百合子候補=1、3に「賛同できない」
2,検討中。(公募はしている、というが、実際には、評判の良い人も落とされているのに逃げている。)
4,既に支払われているという認識
(実際は十分払われていないから問題なのですが?!)

蓮舫候補=1~4すべてに賛同。
清水候補=1~3に賛同。4も肯定的な検討中。
田母神俊雄候補=1、3、4に賛同。2は検討中(段階的制度設計)。

◆東京一極集中と地方へのゴミの押し付けに依存した東京の「豊かさ」

また、小泉・竹中政権以来、どんどん、東京に広島を含む地方の富は移転されていきました。

他方で、昔から、東京を含む関東の産業廃棄物はバンバン広島などに来ているわけです。もちろん、湯崎英彦広島県知事や石丸伸二・安芸高田市長(当時)が日本一緩い広島の産廃規制を放置してきた問題はあります。それにしてもです。

原発にしても、そもそもは東京など大都市の電力不足を補うためのものでした。いま、福島の放射性廃棄物を含むゴミが三原本郷産廃処分場にも来るのではないか、と言う話にもなっています。

東京のインテリの間には「田舎のために東京のお金が吸い取られている」という論調も強くありました。しかし、大手企業の地方工場の利益は東京本社が吸い上げています。そして、上記のような地方への東京による負担の押し付け。このことを無視して地方や地方の年配者を見下すような、東京のエリートの発言を拝見すると一人の東京出身者としてげんなりします。

◆70代以上単身女性が半数以上働いている国ニッポン

そもそも、日本の高齢者は70代でも半分以上働いています。
これは諸外国でも異常なことです。特に単身女性の方にその傾向は強くあります。
コンビニ。工場。土木現場。介護職員。ありとあらゆる現場には、外国人とともに高齢女性の方が多くおられます。というか、最近は円安を背景に外国人が伸び悩んで、日本人の高齢女性が目立つ感じもします。

夫がいることを前提に、女性が賃金を抑えられていた時代があった。それで、単身女性の賃金収入は低く、老後も年金が低い状態にあるわけです。そして直近では男性高齢者も最近は孫育て、アルバイトに忙しい方が増えています。

そして、今後、就職氷河期世代においては、男性も非正規雇用が多いため、現在の単身女性高齢者の惨状が男性にもこの小池政権的な政治が続けば広がるのは間違いありません。

もちろん、例えば、中央省庁→地方自治体の幹部という出世をされる方も30代、40代の女性に結構おられます。あるいは、畝本新検事総長も含めて、要職に女性が多くなっていること。これ自体は、大変結構なことです。長期的にはジェンダー解消につながっていく効果はある。

しかし、同時に、それは多くの先輩方の努力の上で現在があるということでもある。ただ、どうも、若手の女性の方の間には「虎に翼」を最近見るまでそうした歴史をご存じなかった、という方も多かったようです。

そして、いまなお、保育や介護、非正規公務員など女性の割合が大きい現場労働者の大きな犠牲があります。

そして、ご紹介したように、東京に富を集中させ、核を含む東京のゴミを地方に押し付けてきたことで、豊かさが成り立っている。

残念ながら、東大、京大、早稲田、慶応等を優秀な成績でご卒業され、仕事をバリバリされ、お子様を名門校に送っている昨今の女性の方でも、こういうことはわかっていただけていないことはよくわかります。その層に、特に小池氏はウケています。

一方で、「パワハラオヤジ」イメージの強い自民のステルスな組織の支援もガッチリ得ている。ということでしょう。

◆地方の男女共同参画行政も「地元重視」へ転機

地方自治体でも最近は女性の副知事や副市長を任命するのは当たり前になってはいます。これも良いことです。とくに副知事だと中央省庁の東大卒の女性を持ってくる、が定番です。

女性副知事は良いことなのですが、では、東京のエリート女性を持ってきて、それで、地方の庶民の女性の状況が改善するか、といえば、なかなか難しいでしょう。
島根県の丸山知事は高卒の県庁たたき上げの女性を副知事に今年度から任命されました。高卒から60歳まで農業から教育まで、あらゆる県内の部署を回られた方です。これこそが、これから必要な「男女平等施策」の一つではないでしょうか?

東大に女性を増やすという案もあるけど、それだと間に合わないし、今の東大の教育を受けても、これまでの男性エリート同様に地方なり現場なりを見下すような女性が増えるばかりではないかと危惧します。

地方においては、学歴関係なく、地元で地道に頑張って来られた優秀な女性がたくさんおられます。

そういう方をきちんと光を当ててポストにつけた方がいいと思う。上野千鶴子先生のご講演を聞くのも悪くはないけど、むしろ、地道に地方で頑張って来られた方が意思決定過程に参画するようにするのが良いと思う。

地方の庶民の女性は、東京から落下傘的にやってきたエリートと、地元の「年配男性中心」の狭間で、意思決定過程への参加が疎外されてきたからです。

◎関連記事「地元で地味に頑張る若手・中堅世代の女性」を大事にし、「メイク ヒロシマ グレート アゲイン」 筆者が県東部女性議員ら前に講演 

広島では特に、湯崎英彦知事が「東京(関東)の女性」を重視しています。平川前教育長は女性民間校長を神奈川から一本釣り。副知事には、東大・経産省の後輩の女性。医療行政担当に局長には厚労省から若手女性。

しかし、平川教育長が暴走し、医療行政では、厚労省出身の若手女性の局長の元、1300~1400億円をかけた巨大病院計画が暴走しています。

◆東京でもエリート重視から庶民・現場に比重を

他方で、東京においても、先ほどご紹介したように、女性でも高齢単身女性、また非正規公務員など大変である。男性でも特に就職氷河期世代以降、大変なことになる。都庁の真下では、いわゆる典型的なホームレス以外の方が次々と食糧支援に並んでいる。

小池氏、蓮舫氏とも、東京のインテリ女性の代表としてやってこられた政治家です。女性が意思決定過程に少なかった時代にはこのタイプの政治家は絶対に必要だった。

ただ、東京の一定年代以下のエリート女性に関しては、小池知事の今回の公約である「無痛分娩」「保育無料化」が実施されれば、一定程度、欧米などにも追いついたという判断ができると思います。

これからは、東京でも地方でもこれまで使い捨てにされてきた現場労働者、そして地方の庶民、こちらに光を当てていく段階ではないでしょうか?

◆「庶民の蓮舫」と「地方の石丸」

蓮舫氏が今回、非正規公務員の待遇改善や中小企業対策として公契約条例を提起したのは、庶民に光を当てる、と言う意味でこの部分について応援しています。ただ、かつて、立憲民主党にせよ、蓮舫氏にせよ、新自由主義的だったのが響いて、なかなか、本来票を得るべきところに伸びきれていない感はある。

筆者自身もくどいようですが、立憲民主党は好きになれません。それでも、路線転換は支持したい。今後、蓮舫氏の路線転換が立憲全体に広がるか?注視していきたい。野党で最も地方に優しい経済政策なのはれいわ新選組ですが、今回の都知事選では山本太郎が「静観」しているのも理解はできます。

※ただし、小池と石丸はありえない、という街頭演説をして結果として蓮舫に援護射撃。この線で今回は良いと思います。

今回、石丸氏は「地方」に光を当てたという「功績」はある。石丸氏の「地方がつぶれたら東京もダメになる」という持論に対して全く異論はありません。こんなことは、筆者がもう何十年も前から申し上げてきたことではあります。

石丸氏が本気であるなら、安芸高田市長時代に例えば、産廃規制を強化するとかすべきだったとは思います。今後は石丸氏が本気であるなら、安芸高田市長時代の「老害叩き」パフォーマンスに頼るのではなく、地方と都会の格差是正を軸としてぶれない姿勢で行くべきです。従来の彼の姿勢のままだと、橋下徹さん的な方向に行きかねないと危惧しています。

なお、田母神閣下こと、田母神俊雄候補は、スクールカウンセラー問題では、労働者寄りの見解を示しています。さしずめ、フランス総選挙で躍進した国民連合に近いと思います。今後、若手で田母神候補の後を継ぐような人が出た場合、国民連合みたいな感じでバカ受けする可能性はあると思います。

◆国政野党が対抗軸をはっきりさせよ

蓮舫、石丸のどちらかが当選となればこれは大事件だ。事件だけれども、「勝ち組子育て世代」と「既得権自民」をがっちり抑えた小池に勝つのはフランスみたいに決選投票制度でもないと難しいでしょう。

難しいけれども、最後まで「小池打倒!」をあきらめるわけにはいかない。「庶民」軸で蓮舫、「地方」軸で石丸が伸び、蓮舫一位、石丸二位、小池三位に持っていければ万々歳。4月の衆院15区補選では小池系候補がマスコミ予想を下回る惨敗もしています。ふたを開けてみないとわからないでしょう。

また、日本全体を変えるには、国政です。国政で野党勢力が東京中心から舵を切り、地方と東京の格差是正を重視するような方向に行くのが望ましいと考えます。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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