受賞した田中慎弥の毒舌。それを受けての、石原慎太郎知事の芥川賞選考委員引退の発言で、今年も芥川賞が注目を浴びた。いつもは芥川賞は新聞でひっそりと発表されるだけとなっていたが、2日連続でテレビの話題になったのだ。
昨年も、「苦役列車」で受賞した西村賢太が、「そろそろ風俗に行こうかなと思っていた」と語り、会見模様がテレビで放映され、ユーチューブでも注目も浴びた。
2年連続で芥川賞がテレビで話題になるなど、近年ではないこと。これで国民も、芥川賞というものがあるということを思い出しただろうと、文壇関係者は密かに、石原慎太郎に感謝している。
「共喰い」で、第146回芥川龍之介賞を受賞した、田中慎弥は17日の受賞会見で、「アカデミー賞でシャーリー・マクレーンが『私がもらって当然だと思う』と言ったそうですが、だいたいそんな感じ」と語った。
選考委員の石原慎太郎を意識して、次のようにも言った。
「4回も落っことされた後ですから、ここらで断ってやるのが礼儀といえば礼儀ですが、もし断ったと聞いて気の小さい選考委員が倒れたりしたら都政が混乱しますので、都知事閣下と都民各位のためにもらっといてやる」
記者から、石原氏に一言と言われて、「今、『おじいちゃん新党』を作ろうとしているんでしょ?だから、その新党結成にいそしんでいただければと思います」
これを受けるようにして、18日、石原慎太郎知事は今回限りで選考委員を降りることを表明。
「いつか若いやつが出てきて、足をすくわれる戦慄を期待していたが、刺激にならない。自分の人生にとって意味合いもない」
田中氏の発言に対しては、「いいんじゃない、皮肉っぽくて。むしろ、彼の作品を評価したんだけどね」と述べた。
芥川賞の選考が知事の片手間でできる、軽いものだということも知られてしまったわけだが、とりあえずこれで芥川賞が注目された。
田中氏の不遜ぶりに眉を顰める文壇関係者は少ない。西村氏の風俗発言もインパクトがあったが、田中氏の発言は石原慎太郎の選考委員引退までも引き出して、芥川賞への注目をアップさせた。よくやった、と田中氏に感謝している者のほうが多い。
風俗発言の西村氏の前は、芥川賞が注目を浴びたのは、2004年に遡る。
「蹴りたい背中」の綿矢りさが、19歳で、「蛇にピアス」の金原ひとみが20歳で受賞し、同時に最年少記録を塗り替えた。
これは芥川賞を興行的に盛り上げようとした村上龍の仕掛けだと言われているが、見事に功を奏して、授賞式にはいつもより遙かに多いテレビクルーが集まった。
ちなみにこの時、直木賞の受賞者は、江國香織と京極夏彦という超人気作家。
それにも関わらず、主宰者が「この後、直木賞の授賞式もありますので」と言っているのに、早々とテレビクルーたちは引き上げてしまった。
「蹴りたい背中」を発刊した河出書房新社、それまで経営難に陥っていた。
休日は社内で冷暖房の使用が禁止されていたため、編集者らは膝掛けなどをして仕事をしていた。
「蹴りたい背中」が受賞して大ベストセラーになったため、経営難を脱し、その後は休日でも冷暖房が使えるようになった。
ちなみに二人のW受賞のときに、石原慎太郎は「今年は該当作無しでも良かったんじゃないか」と言っている。
今回の騒動は、若い女性でなくとも、おじいちゃんとおじちゃんで芥川賞を盛り上げられることを証明した、素晴らしい出来事だった。
(FY)