神奈川県の福祉事務所が、風俗店で働かされていた女性を保護したことがあった。女性は臨月に近いお腹を抱え、働かされていたのだ。働かせていた人物が、「女を返せ」「返してもらわないと家のローンが払えない」などと、県庁に苦情の電話をかけてきた。「返さなければ県庁に行く」という勢いだ。
保護した担当者に県庁秘書課の主幹が言ったのが、「すぐに対話をしてきてください」「知事命令です」という言葉。対話行政だというのだが、暴力事件も起こしている人々と、何を話し合えというのだろうか。

保護された女性を気遣うよりも、体面を気にするお役所。『ノンフィクションの彼方に vol.1』(鹿砦社)に収められている、「やってはいけない--おかしいぞ、神奈川県庁!!」に挙げられている一時例だ。著者の三谷誠は、35年間、神奈川県職員だった。県議会議員のケニア・エジプト視察の実態、人権担当課長によるセクハラなど、興味深い実例を挙げて、公務員というものの実態を浮き彫りにしている。公務員というのは実社会とはかなり異なった存在だというのはよく言われることだが、それが想像していた以上だというのが分かる。

『ノンフィクションの彼方に vol.1』は、鹿砦社が公募したノンフィクション賞の佳作を集めた作品集だ。他にも力作が揃っている。

「楯の会」の一員だった伊藤好雄は、「先生が行動するときは、必ず自分もいくものとだと信じていた」にも関わらず、三島由紀夫の自衛隊市ヶ谷駐屯地での決起を、自宅で見ていたテレビで知ることになる。
その前に、三島の家に一人で呼ばれ「武器庫の位置を覚えているか」と、駐屯地視察のときの記憶を質されるなど、三島から信頼は厚かった。

三島に最も近くいて生き残った、伊藤好雄の書いた「テロリストとして死んだ、わが師三島由紀夫に捧ぐ」は、決起の前後の三島を克明に綴っている。
東大駒場祭で、全共闘と討論したときの、三島の心情も書かれている。
「権力者を自明の『悪』とみなして、それを批判している自分たちは、間違いなく『善』であるという弛緩しきった態度、共産主義という外国製のブランドを借りながら、それに気づきもせず、善という立場に安住している、不安のなさに、先生は苛立っていたのだろうと思います」
三島の鳴らした警鐘が、今に至るも響いていると感じざるを得ない。

5月22日開業で今から盛り上がりを見せるスカイツリーについて、立地、収容能力、人や車の動線、タテ割り行政など、様々な方向から危険性を指摘したのが、月止誠による「〝人の津波〟への備えは十分か?--スカイツリー〝安全神話〟の死角を突く」だ。

林健による「電力利権に群がる〈電力マネー・平成三怪人〉」は、電力の闇の部分をコントロールする3人の人物を詳述している。これを読めば、福島原発事故を巡る現在の電力の状況が、違った角度から見ることができる。

AV女優がしかけるデート商法、女子大生が運営する「AV企画系女優派遣サークル」、AV女優が作った「シニア専用デリヘル」、などAVの舞台裏を書いた、多摩川三郎の「あるAVライターの記録--封印された『エロ最前線事情』」。これもまた、現代を鋭く切り取っていると言える。

(FY)