イランの核兵器開発を巡り、それを阻止しようとするアメリカとの間で駆け引きが続いている。アメリカは昨年暮れに、イランの中央銀行と取引する金融機関を制裁する法律を制定した。原油売り上げに歳入の半分以上を頼るイランの輸出を止めることで、核兵器開発の中止を迫ろうとしている。それに対しテヘランは世界で取引される原油の2割が通過する動脈であるホルムズ海峡の実力封鎖の可能性をちらつかせている。
アメリカ自身はイランから原油を買っていないため、経済制裁が思惑どおりにはこぶかどうかはイランから原油を輸入する国にかかっている。特に鍵を握るのはヨーロッパと中国だ。現在、イランから原油を買う国は、中国、日本,インド、韓国、台湾、トルコ、南アフリカ、スリランカなど限られた国だけだ。アメリカ政府はそれらの国の経済機関がイランと取引した場合、自国の金融機関との取引を禁止すると脅している。
イランの原油生産は79年の革命の混乱で落ち込んだまま、未だにそれ以前のレベルに回復していない。70年代なかばには日産600万バレルを生産しそのうち500万バレル以上を輸出していたが、90年代はじめから生産は日産約400万バレルのまま、ほとんど増えていない。生産が伸び悩む中、イランにおける一人当たりの使用量は70年前後に比べるとほぼ倍増し、サウジ(40バレル/一年)には遠くおよばないものの、イギリスやフランスやドイツなどの「先進国」にほぼ肩を並べるレベルの年間約8バレルにまで増えている。国内消費量は2010年に生産の半分近い約200万バレルにまで達している。国際市場に出回るイラン原油そのものがどんどん減ってきている。
イラン原油のほぼ1/4を輸入するEUは制裁への参加をいち早く表明しているものの、加盟諸国がそれぞれイランと売買契約を結んでいるため、全面禁輸に踏み切るのは、早くて今年7月過ぎと見られている。
EUがイラン原油の禁輸に踏み切っても、イランが約45万バレルを別な国に売りさばくことができれば、禁輸の効果は薄れてしまう。
日本、韓国、台湾は国際市場に出回るイラン原油の約1/3を輸入している。アメリカの「同盟国」として、それぞれ経済制裁に基本的には同意しているものの、具体的な実施日時はまだ発表されていない。日本の民主党政権のように政府内の意思統一が図られていない場合もある。これらの国はEUが買わないイラン原油をのどから手がでるほど欲しいにも関わらず、アメリカの制裁とを天秤にかけると、手を出せないかもしれない。
スリランカは国内で消費される原油をすべてイランに頼っている。トルコ、南アフリカはそれぞれ自国で消費する原油の3割にあたる約18万バレル、約10万バレルをイランに頼っている。これらの国は禁輸には簡単に同調できない。かといって、ヨーロッパ向けのイラン原油が市場に出回っても、それを買いイランへの依存を高めることはエネルギー安全保障の観点から難しい。
中国はイランの輸出する原油の1/4以上にあたる54万バレルを輸入しており、アメリカの経済制裁の鍵を握るもうひとつの国だ。中国が同調しなければ制裁はほとんど効果がない。それどころか,中国はヨーロッパ分の原油を戦略的な備蓄として、たぶん市場価格より安い値で買い取ることも予想される。そうなれば、アメリカの制裁はまったく意味をなさなくなる。
残るインドは国際市場に出回るイラン原油の約1/5にあたる37万バレルを輸入している。インドから見ると、イランはサウジに次ぐ原油供給先であり、制裁には反対を表明している。これまでのドル建て決済に代わり、ルピーで清算する話し合いをテヘランとの間で始めていることを現地紙は報じている。
イランに対する経済制裁の最も大きな問題は、それぞれの国がイランから原油を買わないとしたら,一体その穴をどこからの原油で埋めるのかということだ。イランからの原油が消費全体の1割を占める日本から玄葉外相が出かけたように、世界各国の首脳のサウジ詣でが続いているのはこのためだ。
サウジ首脳は訪れる外国首脳に、日産一千万バレルの生産を約束したり増産を口にするが、それがはたしてどこまであてにできるのか。そして仮にサウジに増産できたとしても,増え続ける国内需要がそれを相殺してしまい、結局国際市場には出回らない可能性がある。
中国、インド、サウジの事情などを考えあわせると、イランに対する経済制裁はほとんど、たぶん,効果がないだろう。
(RT)