「東北へ行こう」というキャンペーンをやっているのは、JR東日本だけではない。JAFも「東北へ行こう!! 復興支援キャンペーン」をやっている。旅行代理店でも、東北の企画を多く見る。
修学旅行先を東北から他に変更する学校がほとんどだが、福岡市の県立修猷館高校では逆に「被災地の現状を直接見ることも大切」として、長野県から宮城県に変更した。1月5日から8日にかけて、仮設住宅に住む被災者やボランティアと交流した。
テレビや写真で見るのと、自分の目で見るのとは違う。ボランティアで行くのに越したことはないが、たとえ見るだけでも被災地を訪れるのは意味がある。
あるいは、被災地を訪れるのでなく、観光のための旅であっても、被災地の経済を盛り上げていくということでは意味のあることだ。
どんな形でも、東北に行って欲しいと思う。
だがやはり、被災地で楽しげに記念写真を撮るなどというのは論外だが、そうでなくとも首を傾げてしまう訪問者もいる。
「一緒に石巻に行こう」
年輩の大先輩から、電話があった。教え子の祖母が津波で亡くなってしまったので、お線香を上げに行きたい、というのだ。一も二もなく承諾した。
石巻では専修大学のキャンパスがボランティアの拠点になっており、そんなところも訪ねてみたかった。
数日前に電話で、待ち合わせをどこにしようか、というので「東京駅の東北新幹線の改札でどうでしょう」と言うと、「東北新幹線の改札ってなに? 新幹線の改札は一つで中で東北とか東海道とか分かれてるんじゃないの?」と言う。
「いや、別ですよ」「私は大阪に行く時にその改札から入る」「だから大阪は東海道だから」とやりとりしているうち、もう自分の見たいところは見られないな、と諦めざるを得なかった。
先輩には免許がなく、仙台で借りたレンタカーを私が運転する。石巻の津波の被害がひどかった地域に入ると、道路が寸断され、橋も渡れなくなっている。
カーナビにはもはや頼れないので、用意してきた地図を開いて、行ける道を探る。
カーナビを指して、先輩は言う。
「これって前のままなんじゃないの?」
まさか? いくら日本の技術が進んでいたって、地震や津波の被災状況がカーナビに反映されるわけがない。
もしかして、津波でほとんどの家が流され、泥地になっている目の前の光景も、この人には見えてないんじゃないか、と思う。いや、きっとそうだろう。
「これが、もしかして仮設住宅?」
明らかに津波で壊され形だけが残っているアパート状の建物を指して、そう言ったのだから。
被災地の人々は、生活を立て直すために、多忙な日々を送っている。
線香を上げに行くと喜んで迎えてくれたが、相手を煩わせてしまったのは明らかだった。
運転免許もなく、新幹線の改札も分からないのだったら、「一緒に行こう」ではなく「連れて行ってくれないか」と頼むべきだろう。
できないことを人に頼るのは、いけないことではない。だが少なくとも精神は、自分の足で立っていてほしい。
被災地に行くときは、それを心がけたいものだ。
(FY)