中国人というと、マナーがなっていない、とにかく謝らない、などという悪評が多かったが、最近はいい評判を聞く。電気の量販店などにいる中国人が、説明が丁寧。こちらが疑問に思うようなことを先回りして解説してくれて、日本人の店員よりもありがたいという声をよく聞く。

日本の都市のあらゆる仕事場で、中国人と出会う。ファミレスやコンビニなどで、微妙な発音の違いから、ふと名札を見ると中国人だと分かる。
だが、敬語の使い方など、日本の若い者と比べて、むしろしっかりしているくらいだ。相当なエリートか努力家だろうと、想像できる。

博多のアパレルメーカーで働く、30代の中国人女性に話を聞く機会があった。
彼女は上海出身。彼女自身は党員ではないが、親は家にガードマンが付くほどの中国共産党の幹部。
上海大学を出て秘書をしていたが、一念発起して博多にやってきた。焼鳥屋で働きながら日本語を覚え、福岡の大学に入って卒業、アパレルメーカーに入社した。
アパレルメーカーで、中国語と日本語ができ、中国の風土や習慣を知っているのは強い。彼女は、若くして店長として働いている。

「共産主義を信じてます?」と訊くと「信じている」とのこと。
「資本主義が爛熟してから共産主義はやってきます。だから今、一所懸命に資本主義を爛熟させているところです」
そう言うと彼女は、仕事でも威力を発揮しているであろう、満面の笑みを浮かべた。
確かにマルクスは、資本主義の爛熟の後に共産主義が来ると言っている。

中国が関心を払っているのは、もはやイデオロギーではなくマーケットだと言われるが、そうではなかったのだ。
イデオロギーを信じることと、マーケットを拡大することは、全く合致しているのだ。

日本と中国の歴史観の違いの話から、首相の靖国神社参拝に話が及んだ。
「死んで仏になったら善人も悪人もなくなるという、日本の死生観は分かっている。ただ、首相は参拝しないというのが、両国の外交上の落としどころ。それだけは守って欲しい。その他の閣僚や国会議員がいくら参拝しようと、こちらは文句を言わないのですから」
きわめて、クレバーである。

日本に来ている中国人すべてが、彼女のような信念を持っているわけではないだろう。
だが、中軸にそのような人々がいて、それぞれの目標の実現に向けて、ファミレスでもコンビニでも働いている姿を見ると、日本で「仕事がない」と言われているのは本当なのだろうか? と考えてしまう。
共産主義というのは、拡大を目指すもの。もとからの中華思想とマーケットが結びついて、中国はパワーを持っている。
安寧としていれば、やがて日本は呑み込まれてしまうだろう。

(FY)