「学校に通っている間に、法を犯して捕まったりしたら、除籍になりますか?」
私も教えているライターズスクールの入校希望者に対する説明会で、そんな質問が出た。
仕事でも人生でも大ベテランの、司会をしていた78歳の講師は「前例がないからなあ」と口ごもった。クリエーターを育てるはずの学校で、「前例」などという役所の言葉が出てきたのにはビックリした。
「自分の倫理に従って行動して、法を犯してしまうことはある」と、私は言った。
沖縄の与那国という島に行くと、天気のいい日には台湾が見える。沖縄本島よりも、台湾のほうが、ずっと近い。
しかし今、与那国から台湾へは、飛行機も船も直行便がない。台湾に行こうと思ったら、いったん沖縄本島まで行かなければならないのだ。
戦後、海の上に国境が生じるまで、与那国は台湾との貿易で栄えた。与那国は東アジアの交通の要衝だったのだ。それが今、どんずまりの「果て」になってしまっている。
その無念さを現してか与那国には、「国境」と書いて「はて」と読ませる居酒屋がある。新鮮な魚が美味しかった。
もちろん国境があったとしても、飛行機や船を通らせることはできる。大陸の視線を気にしてなのか、それができていない。こういうことこそ、政治が解決すべきなのだが。
おかしい、と思って、自分で船を操縦し台湾に向かえば、不法入国で捕まる。その体験を原稿にすれば、与那国がどんずまりになってしまっている、ということを浮き彫りにできるだろう。
違法であっても、こうした行動は非難されるべきではない。
福島第一原発の事故で立ち入り禁止になっている警戒区域に、入って取材している仲間のライターもいる。取材許可が下りなかった時期に、原発の敷地の外壁まで接近した者もいる。事実を知らせるために、必要な違法行為だろう。
「そういうことは、むしろやるべきだ。どんどん頑張ってやってください」
そう言って、話を締めくくった。
春から、新しい生活を始める若者も多いだろう。
しっかりとした自分の人生を手に入れるために、自分自身の倫理を育てていくことを、心がけてほしいと思う。
(FY)