マツコ・デラックス、IKKO、KABA.ちゃん 、美輪明宏、おすぎ、ピーコ……。オネエ系タレントの活躍がメディアを賑わしている。こうした状況を、ゲイで作家の伏見憲明が朝日新聞の「ニュースの本棚」という書評欄で、3冊の本を通して分析している。
だいたいは頷ける内容だが、おやっ? と思ってしまったのが、次の一節である。
「それにしても、どうして日本の社会の中で、同性愛者や女装者は欧米ほどには露骨な反発もなく受容されてきたのか。性解放の先進国と目される米国では、97年の時点でも、人気コメディエンヌ、エレン・デジェネレスがTVネットワークでレズビアンであると告白したことが騒ぎとなった。一方、日本では50年代に、人気歌手であった丸山(美輪)明宏がゲイを自認していた」

日本では、レズビアンだと噂されるタレントはいるが、レズビアンだと公言しているタレントはほとんどいない。昨年、一ノ瀬文香がレズビアンだとカミングアウトしたが、タレントとしては彼女が初めてではないだろうか。幸い彼女のカミングアウトは温かく迎えられ、ゲイ・レズビアンを語るNHK教育の番組に出演したり、自身の経験を描いた漫画『REAL BIAN』の原作を担当したりしている。

しかし彼女のカミングアウトは相当に悩んだ末、勇気を振り絞ってのことだった。伏見氏は、ゲイが受け入れられていることを、同性愛者が受け入れられているとして、ゲイを同性愛者の代表のように言ってしまっている。実際には、レズビアンのタレントがメディアで無条件に受け入れられるような土壌は、日本にはまだない。

ゲイの活躍は、タレントだけでなく、広範囲に及ぶ。伏見の書評にも出てくるが、三島由紀夫はゲイを題材にした『仮面の告白』を書いている。映画監督の橋口亮輔は『渚のシンドバッド』『ハッシュ!』などゲイをテーマにしたすぐれた作品を世に送り出している。ゲイの雑誌は「薔薇族」「SAMSON」「Badi」「G-men」と4誌も出ている。

レズビアンでは、作家の中山可穂がレズビアンの性愛を書き続けている。男性や異性愛者の女性が読んでも心が揺さぶられる深いものだ。だが他では、レズビアンの目立った活躍はあまり見られない。人権活動家の尾辻かな子は大阪府議会議員になった後、国政へとチャレンジしたが破れ、新宿2丁目にあった事務所も閉鎖してしまった。2004年から05年にかけて「Carmilla」というレズビアン雑誌が発刊されたが、10号で廃刊となっている。

レズビアンより、なぜゲイの活躍が目立つかと言えば、やはりまだまだ日本は男社会だということだろう。
レズビアンというのは、男の視線で消費されやすい存在だ。アダルトビデオのレズビアンのように、美しい女性同士が絡み合っているという図を思い浮かべてしまう。
ゲイの店が多い新宿2丁目に、レズビアンの店もある。レズビアン同士の出会いの場だが、男性の入れる店もある。
男性客を接待してくれるのは、タチ役の店長だ。在りし日の鈴木ヒロミツにそっくりのルックスで、話すこといえば、キャバクラに行ってキャバ嬢を口説いたこととかで、男と話しているのと変わらない。
もちろん、イケメンのタチ役もいる。だが、この店長と話すことを楽しめるようにならなくては、レズビアンの理解はおぼつかないだろう。

レズビアンが活躍するようでなくては、日本で同性愛が受け入れられているとは言い難い。
一ノ瀬文香さんには、ぜひとも頑張っていただきたい。

(FY)