映画「テルマエ・ロマエ」を観た。文句なくおもしろい映画であり、人気沸騰中の作品である。今、劇場には客が殺到しており、席をとるのも大変だ。文化的余韻とエンターテイメントがこの映画には見事に共存している。
うれしいかな、俳優阿部寛(47)が主演したこの作品は、イタリアで開催された欧州最大規模のアジア映画祭「ウディネ・ファーイースト映画祭」で、4月28日、マイムービーズ賞を受賞している。古代ローマ人役の阿部の演技が大受け。韓国、中国などアジア圏10の国と地域から出品された62作品から、インターネット投票によって決まる同賞に選ばれた。
「原作は、ヤマザキ・マリ氏がコミックビームに描いている漫画です。女性のファンを取り込み、スマッシュヒットとなりました。深夜にアニメが放映されて人気を集め、映画へと弾みがついたのです」(映画関係者)
「テルマエ・ロマエ」の舞台はハドリアヌス帝時代、西暦130年代の古代ローマだ。浴場を専門とする設計技師ルシウス・モデストゥス(阿部寛)は、革新的な建造物が次々に誕生する世相に反した昔ながらの浴場の建設を提案するが採用されず、事務所と喧嘩別れしたことで失業状態となる。
落ち込んだまま公衆浴場に向かったルシウスは、静かに考えごとをしようと水中に潜ったが、なんと現代の日本の銭湯に空間移動していた。そこで見た大きな鏡や、フルーツ牛乳やドライヤーに感動しているうち、いつしかローマに逆戻り。見たアイテムをローマに持ち込み再現、フルーツ牛乳や鏡、そして風呂桶などが使いやすく斬新だと大きく反響を呼ぶ。
「日本人にとっても、古代ローマ人にとっても風呂は特別なものであり、共通する文化をうまく救い上げたのが、イタリアでも日本でも受けた理由でしょう」(映画ライター)
現在のイタリアでは、バスタブというものにめったにお目にかかれない。イタリア人にとっても古きよき時代を思い出す映画となっただろう。イタリア北東部のウディネで行われたプレミア上映会は、爆笑の連続になった。温水洗浄便座で肛門にお湯を浴び、味わったことのない感覚に驚いて奇声を発し、便座を見詰めるシーンには拍手も起きたという。
文化の違いがこれほどおかしく描かれた作品は、このところお目にかかれなかった。原作者のヤマザキ氏は、本当によくローマ文化というものを研究しており、漫画のあらゆるシーンに研究のあとが見える。
ちなみにルシウスが仕えるハドリアヌス帝は、実在する人物であり、少年を側近にしてこよなく愛するなどの事実もさりげなく挿入されている。ルシウスというキャラクターは記録上は実在しないが。
ちょっとしたアイデアを入れ込むことで、周知の歴史事実が驚くほど輝きを放っていく典型だ。
このところ刑事ドラマやありえない、歯の浮くような映画ばかりなので、久しぶりに秀作を見た気分だ。
(渋谷三七十)